傀儡の恋
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いったいなぜ、ザフトのMSが地球軍のそれを守ろうとするのか。
理由がわからない。
だが、それ以上に気にかかるのは今、精神に作用してくる存在だ。
「この体でも貴様を感じるとは思わなかったぞ」
アル・ダ・フラガのコピーであった前の体ならともかく、とそう続ける。それとも、それは肉体ではなく精神に関わる能力だったのだろうか。
そういえば、レイの存在も知覚できたような気がする。
「今はそれを検証している場合ではないな」
この状況をなんとかしなければいけない。
だが、とすぐに思い直す。
この感覚を生み出している相手は地球軍のMAに乗り込んでいるらしい。
「敵は少ない方がいいな」
あの機体はそれなりの性能を持っているようだ。だが、MSほどではない。
「悪いが、下でおとなしくしていてもらおう」
照準を合わせるとビームライフルで撃ち落とす。
『パイロットを確保しておけ』
何かを感じ取ったらしいカガリの指示が回線越しに聞こえた。
あるいは、彼女もあの動きに見覚えがあったのかもしれない。当然、キラもだろう。
『了解しました』
オーブ軍のパイロット達が即座に言葉を返している。後は彼等に任せても大丈夫だろう。
「……動いた?」
今まで何もしなかったのに、とラウは顔をしかめる。
「あれが撃墜されたからか?」
その可能性は大きいだろう。
おそらく、あれのパイロットは強化人間と呼ばれる実験体だ。以前、《一族》のライブラリで見た覚えがある。
しかし、彼等の制御は何パターンかあったはずだ。
三年前の戦いで投入されたパイロットは薬物だったはず。
しかし、目の前のパイロットの制御がどのようになっているのかまではわからない。
ただ、現状から推測して『指揮官に精神的依存』と言う要因があるように思える。
人の心をどう考えているのか。
そんなことを考えてしまうのは、今の《自分》もやはり《作られた存在》だからだろう。
しかし、だ。
「同情することと見逃すことは別問題だろうね」
戦争である以上どこかで割り切らなければいけない。相手にどのような感情を抱いたとしても、だ。
軍人としての教育を受けてきた自分はそれができる。
カガリも可能だろう。
だが、キラは……と問いかけられれば『無理だ』と言う結論しか出てこない。
ならば誰かが肩代わりすればいいだけのことだ。
「君に譲れないものがあるように、私にも失えないものがあるのだよ」
たとえ誰に恨まれようと、とつぶやくとラウはアストレイをフリーダムと敵機の間に割り込ませた。
その瞬間、相手のビーム砲に光が集まり始める。
『ラウさん!』
キラの呼びかけが耳に届く。
「恨むなら、私を恨むのだね」
それに言葉を返す代わりに、ラウはビームライフルの引き金を引く。
『やめろぉ!』
そう叫んだ声の主は誰だったのか。
確認することはできない。
ただ、まるで断末魔の叫びを上げるかのように発射された巨大MSのビームが天を焦がした。